<2>

『俺が王位を継ぐときには……お前を一番最初に側に呼ぶ。──だから、それまで待っていろ』
 ──それは、永遠に果たされることのなかった約束だった……。


 初陣から戻ってしばらくの間は、王子は遠征に駆り出されることは殆どなかった。
 あの日、一人で黙って陣地を抜け出した上に危うく身の危険に陥りかけたことを王に咎められ、反省も兼ねて自粛するように言い渡されたためだ。
 当然王子は不満を口にしたが失態を見せたのは事実なので、父王にそれ以上反論もできずに母星での訓練だけで終わる日が続いた。
『つまらん! 貴様ら、それでも上級戦士か!? もう少し骨のあるところを見せてみろ!』
 しかしそんな我慢がいつまでも続くわけがなく、側近相手の不完全燃焼なトレーニングにもいい加減飽きてきた頃。
(あいつなら、もっと……)
 ふとした拍子に思い出したのは、あの男のことだった。


 遠征から戻って来たあと、特別編成の護衛チームはその場で解散したため、それ以来あの男には会っていない。だが、男についての情報は案外簡単に得ることができた。
 バーダックは下級戦士の中でも抜きん出た実力の持ち主で、その戦闘力は既に上級戦士にも匹敵するほどだった。
 それゆえエリートと称される上位戦士の間でも何度か噂に上ることがあり、中にはやっかみ半分に絡んで返り討ちにされる者もいたらしい。
 それを聞いてますます、王子はバーダックに会ってみたくなった。
 あの日垣間見た男の戦う姿、肌で感じた歴戦の戦士の実力。
 あの男はどれぐらい強いのだろう。本気になったら、どういう戦い方をするのだろうか。
 そう思うと居ても立ってもいられず、ある日王子は自ら下級戦士の区画へ出向いた。
 まだ陽の暮れないうちから遠征帰りの戦士で賑わう酒場の中を、臆することなく奥へ進む。
 安酒の匂い漂う雑然とした空気に似合わぬ幼い姿、しかも王族がじきじきに現れたとあって面食らう者も多く、一体何しに来たのかと皆口々に囁き合う。
『おい、バーダックという男はどこだ』
 だがそんな物珍しげな視線など歯牙にもかけず、王子は毅然とした口調で目的の相手を探す。
 バーダックならあそこに、と指差された先で、見覚えのある頬傷の男が仲間と一つの宅を囲んで飲んでいた。
 下級戦士を名指ししてきたことに皆がざわめく中、妙な空気に気づいた彼らが『何だ?』と振り向く。
 そこにつかつかと歩み寄ってきた王子の姿に、男の目が微かに見開かれた。
『……こいつぁ驚いた。こんなところに直々に何の用ですか、王子』
 だがその目はすぐに面白そうに細められ、からかうような口調で問いかける。
 漂う酒の強い匂いにムッとしながらも、王子は真っすぐバーダックを見上げて口を開いた。
『探したぞ。俺様のトレーニングの相手をしろ、バーダック』
『へ?』
『城の奴らはどいつもこいつも腑抜けでつまらん。貴様は強いんだろ? なら、俺の相手をしろ』
『………』
 突然の申し出とその口調に呆気に取られ、しばらく目を瞬いた男はやがて小さく喉の奥で笑い出した。
 周りの仲間たちも驚き半分興味半分に成り行きを見守っている。
『へぇ〜、こりゃまた驚いた』
『あんたもやるじゃない、バーダック』
『お前、王子をそそのかしたら重罪だぞ』
 からかい口調を投げてくる仲間たちに『うるせぇよ、黙ってろ』とひと睨み返すと、グラスに残っていた酒をあおって王子に向き直る。
『まさか王子様から直のご指名を頂くとはねぇ。光栄至極に存じます、と言いたいところだが、俺で王子の相手になりますかね?』
 悪気はないものの、慇懃無礼そのものといった言い回しに王子の眉がムッと寄せられる。
『ふざけるな、俺は本気だ。それとも……貴様なら少しは骨のあるところを見せてくれると思ったが、怖じ気づいたか? なら俺の見当違いだな』
 逆に子供らしからぬ好戦的な視線を向け、王子がニヤリと笑う。
『………』
 今度は逆にバーダックが微かに口の端を曲げる。
(……こりゃまた、ガキのくせによく口が回りやがる)
 相手の自尊心を刺激して挑発してくるその言葉に、多少ムカつきつつも今は不思議と乗せられてやってもいいかと感じる自分がいた。
『見損なってもらっちゃ困るなぁ。いいでしょう、お相手しますよ王子』
 自信に溢れた顔で笑みを返す男と、王子の視線がぶつかり合った。


 結果は、王子にとっては実に不本意なものだった。
 戦闘力数値そのものに大差はないとはいえ、その豊富な戦闘経験と戦術で対抗してくるバーダックは、実戦経験の殆どない王子にとっては一筋縄ではいかない相手だった。
 「手加減はしねぇぜ」との前置き通り、遠慮なしに攻勢を仕掛けてくるバーダックの前に王子は始終防戦に回り、歯が立たない状態だった。
『おいおい、そろそろ限界だろ。これ以上無茶しねえほうがいいぞ』
 殆ど体力を使い果たしてもなお引こうとしない王子に、バーダックは呆れながら言った。
『ま…まだだ、まだ俺様は負けてないぞ! もう一度だ、いくぞ!』
 肩で息をしながら挑戦的な瞳で睨み、王子は再度男に向かって飛びかかった。
『おっと! …ったく!』
 向かってきた拳を受け止め蹴りを軽くいなすと、バーダックは後ろから王子を抱え込んで動きを封じ、そのまま床へ下り立った。
『くそ、離せ! まだ終わってない!』
 大人の力でがっちり押さえ込まれては身動きが取れず、悔しくて暴れようとする王子に、バーダックが溜め息をついて両肩を強く掴むと、正面から向き直る。
『今日は終わりだ、王子。気持ちはわかるが、それ以上無理をしても体に負担をかけるだけだってのはわかるだろう』
 間近で射抜くような視線で睨まれ、王子の罵声が止まる。
『正面から挑むだけが戦いじゃねぇ。今はまだ知らなくて当然だが、これから覚えていけばいい。頭を使え。引き際を見誤るな。無謀と挑戦は違うってことを忘れるなよ』
 抑えた声音で諭されるそれは、経験してきた者のみが持つ重さを持って耳に届いた。
 正面から自分に向けて発せられる真摯な言葉。彼の周りにはこちらの機嫌を伺う大人が大半だったため、今まで殆ど受けたことのなかったそれは、王子の心に真っすぐに響いた。
 おとなしくなった王子の頭をくしゃっと撫で、バーダックはニッと笑った。
『それに、間違って怪我でもさせたら俺の首のほうが危ないからな。少しはこっちの立場も考えてくれよ』
 苦笑混じりに言う男に、ムッとした顔を上げる。
『いつもそう言って、どいつもこいつも本気を出さないのがムカつくんだ。俺は本気で戦ってみたいんだ…!』
 立場上仕方のないこととは理解している。だが、幼くして誰よりもサイヤ人らしい闘争本能に溢れた王子には、周りのぬるま湯が退屈でしょうがないのだろう。
 子供らしい膨れっ面で不満をぶつける王子に、バーダックは少し思案顔になった後に口を開いた。
『今はまだ仕方ねえさ。だが、焦るなよ。少しずつでも経験を積んでいけばいい。トレーニングくらいならいつでも付き合ってやるさ』
『…本当だな。俺様がお前に勝つまで、逃げるなよ』
『ああ。お手柔らかに頼むぜ、王子様』
 冗談混じりの口調でもその視線に茶化す色は見られない。
 王族だからと諂(へつら)うこともせず、子供だからと舐めてかかるような横柄さもない。
 あくまで自然体で、そして正面から自分と向き合うバーダックの態度は、王子にとってはある種心地良さすら覚えるものだった。
 それ以来、男は王子の密かな目標となったのだった。


 初めて手合わせをした日から、王子は時間を見つけてはバーダックと訓練の時間を持つようになっていた。
 もちろん王子には王宮で訓練以外のスケジュールがあり、バーダックは遠征の合間を縫っての手合わせだったから、そう頻繁に顔を合わせることはできなかったが、それでも定期的なトレーニングは続いていた。
 回数を重ねるごとに確実に上達していく王子の成長の早さにバーダックは内心舌を巻いたが、その結果を見ることをいつしか楽しみにしている自分がいた。
 そう遠くないうちに王を超え、サイヤ人の中でも随一の戦士になるだろうことが予感できるほどに、王子の才能は群を抜いていた。

『大したもんだな、まったく。お前みたいに物覚えの早い奴はそうそういねえよ。俺のガキとはえらい違いだ』
 ある時、休憩を取っている際にバーダックがボソリと漏らした言葉に、王子が怪訝そうな顔を上げた。
『お前、子供がいるのか?』
『あぁ。だが、下級戦士らしく大して役に立ちそうにねぇ落ちこぼれさ。そのうち二人目も生まれるが、似たようなもんだろ』
 特に感慨を抱く様子もなく淡々と語るバーダック。王子もその立場上、同年代の子供と接することが殆どなかったが、サイヤ人は力がすべての基準だ。弱い者に興味がないのは至極当然のことだった。
 サイヤ人の戦闘力は大抵の場合においてその血筋に左右されることが多い。無論それが全てではないにしろ、下級戦士の出自でありながらこれだけ飛躍的な戦闘力の伸びを見せるバーダックのほうが、やはり特殊なケースなのだろう。
『お前みたいな将来有望なガキだったら、鍛え甲斐もあるってもんなんだがな』
『ふん、俺様を誰だと思ってる。そこいらの子供と一緒にするなっ。お前だってすぐに追い越してやる』
『はは、そりゃ結構。俺もそう簡単に追いつかれないようにしねぇとな』
 全力を駆使してぶつかる訓練と、合間に流れる軽口を叩きながらの穏やかなひと時。
 王子にとって、いつしか当たり前のように近くにいる存在になっていた男。
 しかし、そんな二人の時間も──そう長くは続かなかった。


 二人が初めて会った日から一年近くが過ぎた頃、王子は当時協定を結んでいたフリーザの意向で、フリーザ軍へ出向することが決まった。
『…こんな時にか? ずいぶん急だな』
 遠征帰りですぐに王子の呼び出しを受けたバーダックは、事の次第を王子から説明されて訝しげに眉を寄せた。
 それもそのはず、王宮では一ヶ月前に王が突然崩御し、その葬儀や雑務等の慌ただしさがやっと一段落したばかりだったのだ。
 王が不在では何かと不自由があるだろうし、王子はまだ即位するには幼すぎる。それならば軍へ迎えて相応の環境を用意したいというのが先方の申し出であった。
 どのみちサイヤ人もフリーザに従属の立場である以上、断るすべもなかったのだが。
『フリーザ様が是非に、と直々の仰せだからな。断るわけにもいかんだろう。フリーザ軍ならうるさい家臣どもの小言も聞かずに済むと思えば悪いものでもない』
 子供らしからぬ言い草にバーダックは呆れたが、父王を亡くした重圧も今は自分なりに昇華しているようだ。その面差しに翳りの色は見られなかった。
(大したガキだぜ、まったく)
 幼いながら凛とした表情、しっかりと現実を見据えて己の足で道を進む決意の眼差しは、この星を統べるに相応しい王者の風格を早くも備えていた。
 一年前と比べて格段に大人びて見える姿に、バーダックは目を細めた。
『それより、俺様は貴様と決着をつけられないことが問題だ。誰か一人供を連れて行くことにはなっているが、訓練の相手にちょうどいいからと貴様の名前を出したらジジイどもがこぞって反対しやがった』
 頬を膨らませて不満たらたらの王子に、思わず吹き出すバーダック。
『ハハハハ、そりゃ無理ってもんだろ。それに、俺じゃ大して気が利くこともできねぇしな、お目付役には向いてないと思うぜ』
 王子付きの側近ともなればエリートの中でも羨望の的のポジションだ。あくまで下級戦士に過ぎない自分には到底無理だし、何より自分の肌に合わないことはバーダック自身がよく知っている。
 王子もそれはわかっているのだろう、しかし不満を抑えきれない顔で言った。
『ふん、やれ伝統だしきたりだと騒ぐ年寄りどもにはうんざりだ。地位にばかり執着するだけで中身のない奴にもな。俺様の周りには、そんなもの必要ない。……だから』
 王子は一旦言葉を切ると、バーダックを見て続けた。
『俺が王位を継ぐときには……お前を一番最初に側に呼ぶ。誰にも文句は言わせん』
 真剣そのものの眼差しに、男の目が僅かに見開かれる。
『だから、それまで待っていろ、バーダック。俺様がお前に勝つまで逃げるなよ?』
 宣戦布告にも似た、自信に満ちた笑み。
 身長差から言えば自分の目線が遥かに上のはずなのに、今目の前にいる少年は、一瞬自分と同等、いやそれ以上にも見えた。
『……了解。その言葉、確かに受け取ったぜ』
 バーダックも負けじと凄みのある笑みを返し──徐に片膝をつくと、男は彼の前で初めて臣下の礼をとって見せた。
『それなら俺も、それまでもっと強くならなきゃな。楽しみにしてるぜ、王子』
 同じ高さで、正面から互いを見据える双眸に、一片の迷いもなく。
 親子ほども差がある、更に王族と下級戦士という立場の間で、しかし二人は確かに同じ眼差しを認め、約束を交わした。

 そして──それが、彼らが最後に言葉を交わした日となった。


 王子がフリーザの元へ出立してから、わずか一ヶ月後。
 惑星ベジータはフリーザの裏切りにより、その終焉を迎えることになる。
 ただひとりフリーザの裏切りに気づき、果敢に立ち向かったバーダックも惑星ベジータと命運を共にし、二人が相見えることは二度となかった。

 ナッパから惑星消滅の報せを受け取ったとき、不思議と何の感情も沸いてこなかったのを覚えている。
 弱いものは滅びる。相手が自然現象にしろ人的なものにしろ、生き延びる力を持たない者の末路は大体において決まっている。それが自分が生きてきた世界では当然のことだったからだ。
 けれど。

 ──お前も、同じだったのか……?

 ただひとり、あの男のことだけが浮かんだ。
 母星の最期がどんなものだったのかなど知るよしもない。だが、自分が唯一認めたといってもいい存在だった男を失ったとき、言いようのない喪失感にも似た虚脱感を覚えたのは、気のせいではなかっただろう。
 だが、いつまでもそんなものに浸ってはいられなかった。弱肉強食が当然の世界で生き延びるには、強くなるしかない。誰よりも。どんな手を使ってでも。
 この手に全てを掴むまで、誰にも邪魔はさせない。
 そう自身に言い聞かせ、生きることを誓ったのだ。
 以来、母星での出来事は心の奥深くに封印され、思い出されることもなかった。──少なくとも、彼が成長し、かの星に降り立つそのときまでは。

 

 ──似ている。
 永遠の命を求めて降り立った辺境の惑星で出会った下級戦士は、まさにあの男と生き写しの容姿をしていた。
 しかし、その言動はあの男と似ても似つかぬものだった。
 サイヤ人にあるまじき甘さはその頃の彼にとっては不快でしかなく、それゆえ情けをかけられて生き延びたことは、彼のプライドを激しく傷つけた。
 あんな甘っちょろい男が、サイヤ人など認めるものか…!
 以来、地球での敗北は長きに渡って彼の中で燻り続ける火種となるのだが──
(まさかあの男と瓜二つの顔を追い続けることになるとはな)
 どんな因果の巡り合わせかと、今となっては苦笑するしかなかった。


 母星やあの男がどんな末路を辿ったのか、当時子供だった自分には知るすべもなかった。
 だが、永遠の命を手に入れるため、そしてフリーザを倒すため、ただひとりで反旗を翻した運命の地──ナメック星での戦いの最中、彼は知る。
 母星の消滅はフリーザの手によるものであることを。
 そして。
『サイヤ人とは愚かなものだ。勝てぬとわかっていながら無駄な足掻きをするのだからな。──あの下級戦士もそうだ、さっさと逃げていれば惑星と運命を共にせずとも済んだものを』
 敗北を喫した最初の戦いで、ザーボンが嘲るように言った言葉。
『下級戦士…!?』
『そうだ、頬に傷のあるいかにも粗野な男だったな。まったく、たかがサイヤ人が一人でフリーザ様に楯突こうなど、思い上がりもいいところだ。そして、同じことをしている貴様も、所詮は同じ低能な猿ということだな』
 下級戦士。頬に傷のある男。
 彼の脳裏に浮かんだのは、ただ一人の男。

 ──バーダック──

 なぜバーダックがフリーザの裏切りを知り、一人で戦いを挑んだのかはわからない。
 しかし、彼にとってその事実は少なからぬ衝撃と、大きな意味を持つものだった。
 ──そうだ。それがサイヤ人だ。
 かつて自分が目標とした男が、フリーザの前で無様に命乞いをし平伏すような腰抜けでなく、最期まで戦士として戦ったであろうことに、彼は微かな満足感を覚えたのだった。

 バーダックや自分が果たせなかった打倒フリーザの思いは、あの男の息子へ受け継がれ、そして初めて伝説の存在となったカカロットの手によって、フリーザは討たれた。
 結局仕留め損なったらしいことについては、どこまで甘い奴だと辟易するしかなかったが、それでも──かつて母星を裏切り滅ぼしたフリーザは、バーダックの息子に敗北し、最期は自分の血を引く息子によってとどめを刺された。
 最終的に、フリーザの支配の歴史にサイヤ人の手で幕を引くことができたのだ。
 あいつも、こうなることを望んでいただろうか──。
 考えても栓のないことで、それでも彼はそう思わずにはいられなかった。
 そして、あの男の血を引く下級戦士を、今も自分が目標としている皮肉に、知らず苦笑が漏れる。
 運命、などという一言で片付けるにはあまりにも出来すぎている現実。一体どんな運命の悪戯だというのだろう。

『──楽しみにしてるぜ、王子』

 母星で最後に会ったあの日、もう永遠に叶うことのない約束を交わしたあの時の言葉が脳裏をよぎる。

(お前もあの世から見て笑ってやがるか? ──バーダック……)

 宵闇に染まった星空を見上げ、届くことのない言葉を呟く。
 茫洋と広がる宇宙に繋がる空の遥か向こうに、今はもうない星の紅い光が──微かに、ちかりと瞬いた気がした。


* * * * * * * * * * *


「──ん?」

 宇宙船から下りるタラップに足を踏み出したところで、男はふと顔を上げた。
 周りに視線を巡らせるが、当たりは見渡す限りの荒野と薄い草原が広がるだけで、何か生物がいる気配もない。
「……気のせいか」
 一瞬、何か神経に触れる気配があった気がしたのだが、今は何も感じない。おそらく小動物か何かだろうと思い、タラップを下りると宇宙船のハッチを閉めた。
 深呼吸して辺りを探ると、少し離れたところに生き物がまとまっているらしい気配を感じ、徐に宙に浮き上がった。
「さて、まずはメシの調達だな。あと何か使えるものがありゃいいが」
 風に揺れる赤いバンダナの端をひらりと翻し、男は目的の場所を定めるとその場から飛び立った。


※表での公開は2話までとなっております。
続きに興味を持って頂いた方は、よろしければ
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